空想社会主義×AIデジタル社会の拓く未来
空想社会主義とは、19世紀初頭の産業革命期にロバート=オーウェン、サン=シモン、フーリェなどが唱えた、資本主義社会の改革をめざし、労働者の状態の向上をめざす思想のこと。
産業革命によって生まれた労働者の貧困や社会のゆがみを直視し、その解決を模索する中から生まれた。
代表的なものとしてオーウェンの労働組合や協同組合論、サン=シモンの産業社会の構想、フーリエの協同体(ファランジェ)などが挙げられる。
空想社会主義はその後のイギリスやフランスの政治にも取り入れられることとなり、資本主義の自由競争に一定の歯止めをかけ、近代国家における社会保障や、社会政策などが実現するうえでの基礎的な理論構築につながった。
しかし、近代資本主義の改良を訴え続け、社会の組織化と改良の方法を考え抜いた彼らの思想は、当時の社会システムでは完全に実現することが難しかった。理想とする社会が実現しないまま、彼らが予見したような資本主義の限界はすぐそばに来ている。
僕はこの思想が今の世の中に示唆するものは大きいと見ている。それは以下の理由によるものだ。
- SNSをはじめとする通信技術の進歩により、社会の組織化(コモンズや協同体の設立)がたやすくなったこと。
- デジタル化により単純労働の比率が減少したことで、経営者と労働者の格差が是正される3次産業社会化よるサン=シモンの考える「産業社会」の到来。
- AI/ブロックチェーンによって、技術的には生産手段のコントロールを市場経済以外の方法でコントロールが可能になったこと。
以上の変化は、今後の社会の設計を考える上でかなり重要なファクターになってくると考えている。
空想社会主義は社会のゆがみの是正を目指した思想であり、その行き着くところは、資本主義によるあらゆる不均衡や格差、歪みを、社会の組織化と資本の共有化により乗り切ることを目指している。かつて、その思想がうまくいかなかった背景にはコミュニケーションコストと産業構造の問題、そして何より3次産業を、組織化された社会全体がコントロールできず、必要なものを得続けるには市場原理の導入以外は当時としては方法がなかったことが挙げられる。それを先に挙げた3つの変化は解決してくれる状況にある。
かつてオーウェンが直面した、共同体内でのコミュニケーションや価値観のズレや共同体建設に多額の投資が必要といった課題は、今ではデジタル技術を使い、ある程度前提のすり合わせの澄んだ人たちをデジタル上に繋ぎ、クラウドファンディングなどで資金を集め、共有資源をつくるといった動きによって解決を可能にしていると思う。シェアビレッジというサービスが日本にもあるが、こういった資本の共有化に適したテクノロジーは日々生まれており、オーウェンの目指した社会の組織化と自治は可能になってきていると考えられる。
また労働者階級が肉体労働を基本とした2次産業や1次産業主体の経済であった当時に比べ産業は拡大し、サービスクラスやクリエイティブクラスの割合は大きく増えた。義務教育の浸透(これはオーウェンの功によるところが大きいが)により識字率は世界でも上昇を見せている。そんな産業の成長を背景として、現在は経営者と労働者の格差は悲惨なものではなく、フリーランスや一人会社が生まれるようになったことや、スタートアップ産業特有の経営者が1番働くという文化などによりサン=シモンの目指した産業社会(生産に関わる全ての産業人が社会を主導していくという考え方)は実現を見せていると僕は考えている。
そして、その先の組織化された社会、産業人がつくる社会を不均衡なく公平に運営する仕組みとして、AIや分散型の統治システムとしてのブロックチェーンはかなりの可能性があると感じている。オーウェンやサン=シモンが生きた当時では実現が難しく空想的と言われたことが現代社会では一部実現され、さらに今後テクノロジーとデジタルコミュニケーションの浸透と産業のデジタル化によりその流れは加速するだろうと僕は考えている。社会主義の究極である社会の安定とそのための組織化はデジタル技術によって完成される。僕はこの可能性をもっと深く考えたいし、未来を予見する試金石として空想社会主義を深く探究したいと思っている。
<連載記事>
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投稿日 | 2021年6月21日 |
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