私たちから始まる社会設計 。民主主義における選挙の役割を海外の事例から紐解く

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ドイツ・ニュージーランドで行われた選挙を例に挙げて、「意見の集約装置」「権力の流動化」という二つの観点で選挙の仕組みや選挙の使い方、そして民主主義において選挙が果たす役割を考える。選挙は私たちに残された最後の希望だ。

国民の意思に基づいて政治が行われる民主主義において、国民の意思を聞く機会である選挙が大きな役割を果たしていることは疑いようのない事実だ。しかし、なぜか選挙の重要性が語られる時は「選挙は大事だから行こう」という荒い解像度のことが多い。

選挙の重要性が分からないままで、選挙に参加する意義を見出すことができるのだろうか?若者が「どうせ自分の一票じゃ何も変わらない」という無力感を抱えている理由もここにあるのではないか。

民主主義において選挙が果たしている重要な役割には「意見の集約装置」、「権力の流動化」という2つがある。

選挙の重要性を理解することで納得感を持って投票を行うことができれば、政治は、社会はもっと良くなるのではないかと考え、この記事では上記2つの役割を深掘りすることで、選挙の重要性に対する解像度をあげることを目指す。

意見の集約装置としての選挙

選挙という装置の機能が国民の意見を集約するものであるということは、選挙について調べた人はすでに良く知っているだろう。しかし、実際にどれほどの人が選挙という装置を正しく活用して、意見を議会に届けられているかは議論の余地がある。

選挙は確かに意見を集約する装置だが、ただの多数決ではない。間接民主主義において選挙とは、国の未来に向けてここ数年で議論すべきアジェンダを広く設定するための場としての機能がある。投票先を決める際には政治家の人となりや党のイメージも確かに重要だが、より重要になるのはどの議題を議会に自分の代理として送りだすのかということである。

このように、選挙の役割を議会に対してアジェンダを提示することだと捉え、活用することで、マイノリティの意見が議論され政治が動くことがある。

ドイツにおける少数政党の躍進

2021年9月末にドイツで連邦議会選挙が行われた。16年にも渡るメルケル政権が終わりを迎えるという事で注目を集めていたが、ここでは2017年頃からのドイツの政局の変化を振り返ることで選挙が意見の集約装置であるという事を考えていく。ここ数年、ドイツは少数政党の台頭によって議論のアジェンダが作られているのだ。

2017年までのドイツの政局はメルケル首相率いる「キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と連立政権を組んでいた「社会民主党(SPD)」が安定して高い支持を獲得しているというものだった。だが、2017年のドイツ連邦議会選挙では、難民の受け入れに反対している政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が獲得議席を伸ばし、第3党になるなど躍進を見せた。また、2019年に行われた欧州議会選挙では環境政党の「同盟90/緑の党(緑の党)」が議席数を大幅に伸ばしただけでなく、政党の支持率調査ではCDU・CSU、SPDを抜きトップにもなっている

AfDの躍進の背景には、東西の経済格差からくる難民の受け入れ反対があると考えられている。それまで安定して支持を獲得したCDU・CSU、SPDの支持率が低下し、難民受け入れに反対するAfDが議席数を伸ばしたことで難民政策が当時最重要のアジェンダとして議場にあがった。実際に、それまでの寛容だった難民政策が国民の不満を買っていると選挙で示したことで、メルケル首相は受け入れる難民の最大人数を20万人制限するという発表をするなど、選挙によって国民が提示したアジェンダが議会で話し合われ、実際の結果にも繋がっている。

緑の党の躍進も同じことが言える。温暖化対策を訴えるデモに10万人が参加するなど、ドイツの若者は環境問題に対する意識が高い。公約の一つに「2030年までに全て火力発電所を停止させる」と掲げていた緑の党が議席数と支持率を伸ばしたのも、高い若い世代からの支持が集まっているからだと言われている。この選挙の結果を受けて、環境問題が最重要のアジェンダだと認識の上で議会が行われた結果、遅くとも2038年までにドイツのすべての石炭・褐炭の火力発電所は廃止するという発表がなされた

このドイツの例からも分かるように、私たちは、議会でどの問題について取り上げて欲しいかを選挙の結果によって示すことができる。

コロナ対策、経済問題、選択的夫婦別姓制度、同性婚、環境問題…これらに限らず、日本は様々な課題を抱えている。投票先を人ベースではなく、どの問題をどの方向性で進めてほしいのか、という政策ベースで投票先を決めることで議会のアジェンダを私たちが決めることができるというのが選挙の重要な役割である。

選挙があることによって権力が流動的になる

イメージしてほしい、特定の政治政策のみが軸となり一つの国を動かしている状態を。しかし、産業構造の変化、社会課題の増加、技術の進歩など様々な要因で社会の基盤が移り変わる現代社会で、特定の政治政策が永続することは絶対にない。特定の政治政策だけを掲げる指導者に任せておくだけでは国が発展しなくなった。そんな時に選挙があれば、国の方向性を議論し、変更することができる。これも選挙の持つ大きな力だ。

政治権力がどこかに集中していると円滑に物事が進む一方、固定化してしまうと腐敗を招く。水と同じだ。集まり流れると力になるが、動かさずに留めておくと腐る。独裁政権や一局集中など民主主義の危機と呼ばれる状態をイメージする人も多いだろう。この状態を防ぐことも選挙の大きな役割である。

選挙は、政策の方向性や血筋コミュニティなどの「あり方」に権力が固定されるのを防ぐ役割がある。これは私たちの社会が、選択肢の多い健全なものであるためには必要不可欠の機能である。

9年ぶりに政権交代が起こったニュージーランド

ここからは2017年に行われたニュージーランドの総選挙を例に挙げることで、選挙によって権力が流動的になるということの理解を深めようと思う。この選挙で当時37歳のジャシンタ・アーダーンが最も若い首相に就任したことで話題となったが、今回注目したいのはこの選挙によって9年ぶりに政権交代が行われたという部分だ。


この選挙では、第一党の国民党、第二党の労働党ともに過半数を取ることができず、第三政党のニュージーランドファースト党(以下NZファースト党)がどちらの党と連立するかによって政権を取るかが決まる状況にあった。NZファースト党の政治傾向はそれまで国民党に似ていたが、党の代表は「国民党と組んでいても現状維持にしかならない」と判断し、労働党と連立することで政権交代が起こった。

こうして9年ぶりに労働党政権が誕生したが、連立政権であるという事もあり労働党の掲げていた政策が無条件に議会で通るというわけではない。例えばTPPに関しては、労働党は再交渉をしたうえで参加の意思を示していたが、NZファースト党や第4政党の緑の党はTPPへの参加を反対していた。そのため、労働党の掲げる政策をそのまま実施するのではなく、十分に議論を重ね、他の党も納得できる形に落とし込む必要が生まれたのだ。

このニュージーランドの選挙の結果からも、選挙があることで政党や政策が常にチェックされる状況に置かれるということが分かるだろう。数年に一度、権力に対するチェックが入り権力があり方に固定されず流動的になることで、政策がその時その社会に最適な形へと変化していくことができるのだ。

終わりに:選挙が私たちの社会を作る

政治はしばしば市場に例えられる。政治家は公約という形で良いサービスを提供すると約束する。私たち国民はサービスを利用する消費者として、次の選挙までの期間できちんとサービスが提供されているか、またそのサービスの内容が適切かを確認する。市場に例えた時の選挙の役割は、最新のトレンドを可視化させることと、定期的にサービスの質のチェックを行うことだ。良くないサービスが淘汰され、良いサービスが受け入れられることを示せば、市場には適切な競争がうまれ、より良い市場が形成されていくのと概念として同じだ。

また、本文でドイツとニュージーランドの選挙を例示したが、この2つの例からも分かるように、第一政党や第二政党以外の規模の小さな政党に票を投じるのは無駄ではない。選挙は、権力をチェックし今の社会に最適な形に変化させることと、自分たちの意思を伝え、可視化することができる機会である。

 私たちは選挙をブラックボックス化してはいけない。今回の記事で紹介した選挙の重要性を踏まえて考えると、選挙は民主主義を実現させるための一道具であると言うことができるだろう。道具を使うことは手段であり、それを目的にしてはいけない。選挙を道具に置き換えた時の目的は、民主主義によって社会が時代に併せて最適化していくことだ。その目的を達成するためにも、私たちは選挙という道具の持つ役割を理解することでブラックボックス化せずに、道具を上手く使いこなさなければいけない。それができれば、社会は今よりも良い形になっていくのではないか。

「2021年、私たちは選挙とどう向き合うのか」

『2021年、私たちは選挙とどう向き合うのか』

日時: 10/25 (月) 19:00-20:00(イベントは終了しました)
開催:オンラインイベント
主催: 北海道選挙管理委員会 
運営:SENSE:D

どう選挙と向き合うべきなのか、選挙によってどう社会は変わるのかをテーマにしたオンラインイベント。

国民の意思に基づいて政治が行われる民主主義において、国民の意思を聞く機会である選挙が大きな役割を果たしていることは疑いようのない事実だ。しかし、なぜか選挙の重要性が語られる時は「選挙は大事だから行こう」という荒い解像度のことが多い。

選挙の重要性が分からないままで、選挙に参加する意義を見出すことができるのだろうか?若者が「どうせ自分の一票じゃ何も変わらない」という無力感を抱えている理由もここにあるのではないか。

 若者と選挙の向き合い方と私から始まる社会設計の手法を考える。

【アーカイブ】
>10/25 デジタルネイティブと問いを探究するメディア #2『2021年、私たちは選挙とどう向き合うのか』SENSE:D 

【イベントレポート】
>「2021年、私たちは選挙とどう向き合うのか」イベントレポート

鷲見 萌夏
PROFILE_

鷲見 萌夏 / ライター

SENSE:D 編集長

1999年北海道札幌市生まれ。上智大学文学部 新聞学科在学中。メディア・ジャーナリズムの勉強をしながら「伝える・伝わる」ことについて考えている。その一環で「ガクセイ基地」「PEACE BOAT DECK」等のウェブメディアで記事を書く。今年のゼミでの研究テーマは、若者におけるラジオの価値を言語化すること。