インフォグラフィックス入門「読み解くための余白と発見」

こんにちは。デザイナーの泉田剛です。

グラフィックや建築のデザインを最近よく学んでいますが、デザインと名前のつく、あらゆる分野に境界を作らず、どんなものでもより良くするためにつくってみたり、つくらずに眺めてみたりしたいと常に思いながら活動しています。

先日、SENSE:Dの林匡弘さんインタビュー / 大通公園での実証実験について【札幌プレイスメイキング最前線#2】という記事のインフォグラフィックを制作しました。

これをきっかけに、インフォグラフィックについての書籍や記事をより意識的に読むようになったので、今回の記事ではインフォグラフィックを学ぶ中で重要だと思ったポイントを書いてみます。

目次

インフォグラフィックとは?

インフォグラフィックとは、情報を可視化する視覚表現の事。交通標識や少し話題になった五輪のピクトグラム、あなたがこの記事を読むために操作しているスマートフォンやPCのUI、東京都の新型コロナウイルス感染対策サイトのデータビジュアライゼーションなど、かなり幅広い範囲で私たちの生活を支えています。

制作を始める事をきっかけに、インフォグラフィックについて少しだけ調べてみると、歴史の始まりは、現代でも僕たちの世界を認識する一つのフォーマットになっている地図や、キリスト教の宗教画と共に発展してきた樹形図。このようにインフォグラフィックは、人類が得意としてきた物事を認識する能力そのものにまで踏み込んでいるような分野だという事が分かります。

それだけに留まらず、情報を可視化、マッピングすることで、点と点の新しい関係性や可能性を見出したり、受け手の思考を促すような役割がインフォグラフィックにはあるのではないかと考えています。

情報を可視化して、共有するための表現

インフォグラフィックを含む多くのデザインには、あたりまえに感じるかもしれませんが作り手と受け取る相手がいます。作り手は情報や意図、視覚的な美しさなど、様々な要素を踏まえてモノをつくります。それを受け取った相手が解釈したり、さらに抽象的なイメージを思い浮かべることで、作り手と受け手との間でコミュニケーションが成立します。

その中でもインフォグラフィックは、情報を取り扱うことが意図や美しさよりも少しだけ優先順位を高く意識したコミュニケーションをとるグラフィックデザインの事を指しています。

作り手と受け手との間で、情報が共有されるためにつくられた表現はすべてインフォグラフィックであると捉えてみると、スーパーに行ってから買うのを忘れないために書いたメモなんかも、数分後の自分を受け手として書いた、インフォグラフィックと考えることができるはずです。

みんなスマホにメモするよね

建築の図面

ところで、建築における平断面図や立面図などの図面も、当然インフォグラフィックです。

施主にどんな建築を考えているかわかりやすく伝えるものや、各部材の詳細な接合部や取り付け部分の状態まで確認できるもの、電気配線や給水設備の位置を示すものなど、様々な用途で様々な情報を伝える図面がつくられます。

しばしば図面で最も重要なのは文字だとする考えもあるようですが、絵が文字よりも文字的な情報を受け手に伝えることも、文字の造形が文字情報を伝えることよりも絵のようにイメージをつくるために扱われていたりすることも多く例があって、一概にはどちらが主だとは言えないような気がします。元を辿れば、文字も絵も同じ祖先を持つ視覚表現だからです。そんな文字と絵の曖昧な役割の境界を、最もよく観察できるのが建築の図面なような気がしています。

サヴォア邸平面図 Kenneth Gadeaによる描き起こし


全体と各部の平面寸法を伝える図面。数字と線で構成されている。
実は数字と寸法の正確な絵、どちらか一方でも情報は完結しているはずだが、同時に表現することによってどちらかだけでは伝わらない建築の総体としてのイメージが現れ、インフォグラフィックとしての情報を伝えるクオリティが生まれている。

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西沢立衛 森山邸

建物の全体のボリュームを把握するための数字と、どんな材が使われているかの文字、線で構成されている。どんな材かという文字情報があることで、図面から寸法をもった材を読み取ることができ、脳内の像にマテリアルが付与される。
文字と絵が相互に補完しあって読み手の脳内に像をつくる。文字と絵をどのくらいのバランスでどこまで整理、表現するかによって、図面のインフォグラフィックとして伝えるイメージも変わる。

読み解くための余白と発見

建築の図面は専門的な知識が必要ですが、情報を可視化して共有するためのものとして、他のインフォグラフィックと同じように受け手による読み解きが必要になっています。読み解く事によって、自分の頭にはなかった情報を発掘する。そんな、情報の鉱脈のように機能するのがインフォグラフィックのおもしろいところだと思います。

単なる情報をインフォグラフィックにするには、受け手が読み解くための余白と発見が重要で、それがないものはインフォグラフィックにする必然性がないものだと考えていいのかもしれません。

整理すると、インフォグラフィックにする意味のある情報を整理、可視化する。読み解くための余白や作り手にも想定できていないような発見があるものにする。これらの点がインフォグラフィックにおける重要なポイントな気がしています。

おわりに

インフォグラフィックという分野の概要から、自分の思う重要そうなポイントについて、インフォグラフィックの一つである建築の図面から文字と絵の境界を観察できるという話を挟みながら書いてみました。それらを踏まえたうえで、インフォグラフィックや建築に関連した制作に今日も取り組んでいます。実際の制作を通して良いものづくりをするには道のりの長さを実感しては驚くばかりですが、希望をもって新しい発見をめざしていきたいです。

参考資料

書籍】

インフォグラフィックの潮流 情報と図解の近代史

時間のヒダ、空間のシワ…[時間地図]の試み: 杉浦康平のダイアグラム・コレクション

Web記事

5回連続講義:「ビジュアル・コンプレキシティ」を読む──データ・ヴィジュアライゼーション講座

〈インフォグラフィックス〉──都市と情報を可視化する

動画】

・A Visual History of Human Knowledge | Manuel Lima | TED Talks

泉田剛
PROFILE_

泉田剛 / ライター

デザイナー

2001年青森県弘前市生まれ。武蔵野美術大学造形学部建築学科在学中。建築とグラフィックを中心にあらゆるデザインを学びながら実践している。
https://go-izumita.studio.site/

2021.06

SENSE:DRIVE

デジタルネイティブの視点の発信をテーマにリサーチやコラムをデジタルネイティブ視点で配信していく探究プロジェクトです。

デジタルが一般になった時代を生きるデジタルネイティブについて、欧米の情報がメインで伝えられる中、我が国のデジタルネイティブのリアルな状況や、考え方、生み出しているものなどをリサーチし、彼らが切り拓く時代を先に伝えていきます。